( néant )

消費期限切れの言葉たち

春時折冬

記憶にも残らない日常が

ひとつ、ふたつと過ぎ去ってゆく。

記録にも残せない日々だけど

それでもしっかりと天気は毎日違う顔をみせてくるし、日めくりカレンダーの数字は増えてゆくばかりだ。

 

なんとなくだけど

冬も終盤に差し掛かってきている気がする

それは、

捲るだけの日々を、無意識に巡っていて

記憶にも記録にも残らない日々の中で

すこし、すこしずつと

寒さのせいにして

誰かを想いだす事もなく

寒いと冷えるばかりの手を

誰かと重ねあう夢を見る事もなく

遠くに浮かぶ夜景を啄ばみながら

寂しさに酔う事もなくなった気がするから

 

お天気は気分屋さんだから

僕が待ち焦がれている寒気を再び運んでくれるかもしれないけど。

もう、今回は訪れる事もないかもしれない。

冬はいつまでもなくならないけども

今、僕が感じたい冬はもうやってこないのだ

 

冬は寂しさを必要以上にもたらす

ときにそれは錆びつき刃こぼれしたナイフのように

冷たく無慈悲に突き刺し心を抉っては蝕んでゆく

僕の中に眠っていた

得体の知れない化け物を炙りだそうとする

闇か或いは本能か

ただ一つ分かること

それは確実に悪意に満ちている姿だという事

化け物になる、ならぬようにともがき苦しむ

自らの醜態を幽体離脱したかのように

客観的に眺める僕がいる

 

さびしさは生きている証であって

きっと恋をしようが、愛を育もうが、富を得て名声を得ようと尽きないものだと思う

何も得てない自分が言うの推測でしかないのだけども

死ぬまで絶え間無くやってくるものだろう

寂しい気持ちに、メリットなんてものは

ほとんどない気がする。

僕を化け物に変えようとするように

誰かにとっても、感じ方は違えど

何かしら悪さを仕掛けてくるだろう

小腹が空いたからとコンビニでパンを買うような、曖昧な理由で、不本意ながらも最短距離で届く愛に同化したフリをしたりと

すこしずつ、すこしずつ

心を蝕んでいるだろう。

 

 

それでも、僕はいま

冬が終わりを告げることに

すごく切なく、寂しくなっている。

 

冬が運んできた寂しさは悪い事ばかりじゃないと思っている自分がいる。

いいや、そう思いたいだけなのかもしれない。

僕は確かにこの季節を待っていた

毎年毎年、この季節を待っている

冬を待っていました。と、amazarashi並みに歌ってみたいものだけど。

あれは、夏だから…

僕がひたすら待っていない夏だから…

 

 

ひんやりとした風が

僕の体に触れるたび

僕の心は季節と逆行するように暖まってゆく

誰も見てない事をいいことに

すこしだけ笑みを浮かべてしまって

パーカーのフードを被ったまま

カラッと透き通った冬晴れの夜空を見上げ

袖口から指先だけを出しては触れようとして

待ち焦がれたこの瞬間に

胸が昂ぶってうれしくなってしまう

僕が背負ってきた拭いきれない寂しさを

冬がエーテルのように癒してゆく気がする

麻痺して気を失ってるだけかもしれないけど

切なさや悲しさを懺悔する必要もないくらい

冷えた風が冷えた心をあたためるのだ

 

 

心はとうの昔に悲しみの果て

悲しみの果てに何があるかなんて

僕は知らない

見たこともない

ただ、あなたの顔が浮かんで消えるだろう

 

でも僕は図太い

悲しみの果てに何があるかなんて

知らないし見たこともないけど

あなたの顔が浮かぶだけ未だマシだと思ったりする。

もちろん、すぐに消えてしまうのだけど

そんな生活にも慣れたら平気になった

悲しみの果てに居座ってるのも悪くないなと

きっと去年の冬も、同じこと思っていただろうし、同じことを毎年毎夜続ける

 

だから、

もう来年の冬を待つことにする

今年の寒気はあきらめて

お別れする

冬を言い訳にして、誰かを求めるのも

つかれてしまうから、

来年の冬は、歓喜に沸くといいな

どこまでも、どこまでもさむくて

あなたの顔が浮かんだまま凍って溶けて消えてしまわないほどに。

 

 

 

来年は冬を言い訳にして、

誰かの寂しさの中にいたい

共犯となって、春を迎えずして春に捕まりたい

 

 

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